韓国の社会的経済の現況と課題(講演要旨)
崔珉竟(チェ・ミンギョン)(京畿道協同組合協議会:事務局長)
去る10月23日、生活クラブ連合会の会議室において、市民セクター政策機構と社会的連帯経済を推進する会の共催による標記の演題の講演会が開かれた。崔珉竟氏はソウル近郊の31市を擁する人口約1000万、韓国第1の地方自治体である京畿道の協同組合連帯組織―京畿道協同組合協議会の事務局長である。同氏はこの間、日本に滞在して日本の生協やワーカーズ・コレクティブなど社会運動を視察調査してきたが、帰国後は官民共同で組織される城南市の社会的経済支援センター・センター長として活動する予定との事であった。
韓国の社会的経済の到達点
韓国の社会的経済は今、ダイナミックに躍動している。その背景に、経済成長の低迷、高い失業率、経済・教育・福祉など生活を取りまくすべての点で格差社会化(韓国ではこれを両極化社会と呼んでいる)の深刻さがある。社会的経済はそれに対する社会運動側の対案として提起されており今、大発展の過程にある。
社会的経済企業の到達点は下記の通りである。但し、この中には農協、生協、信用協同組合、中小企業協同組合、漁協、山林組合、タバコ協同組合、セマウル金庫など既存の個別法に基づく協同組合は含まれていない。ここで社会的経済として分類されているのは、社会的企業育成法に基づく企業、協同組合基本法に基づく協同組合と社会的協同組合、ソウル市等が条例で定めている社会的企業、協同組合、社会的協同組合、マウル企業、自活企業などだ。
2019年3月の政府統計では、社会的企業は2122企業(雇用者45522人)。協同組合14550組合、従事者37020人。マウル企業1614企業、従事者19076人。自活企業1211企業、従事者10843人であり、合計すると19397事業体、働く人々は11万2461人である。
これらは大部分が社会的企業育成法(2007年)、協同組合基本法(2011年)、ソウル市の社会的経済基本条例(2014年)が制定された後に組織されたものであり、きわめて短期間に爆発的に発展したと云えるが、後に述べるように課題もまた少くない。
法律のもとに各自治体では沢山の条例を制定している。例えば「社会的経済育成条例」「社会的企業製品購買及び販路支援条例」「社会的経済活性化及び支援条例」「社会的基金設置及び運営条例」など。全国で183個の条例が制定されている。
現在マウル企業育成法の制定が準備されており、社会的経済の運動を推進する陣営の間では、「社会的経済3法」の制定運動を行っている。3法とは、①社会的価値基本法、②社会的経済基本法、③社会的経済販路支援法である。
マウル企業について
日本には馴染の少ないマウル企業について述べる。まずマウル企業とは地域社会に必要なビジネスの担い手であり、①地域資源を活用した収益事業であること(企業性)②地域社会の問題を解決して所得や雇用をもたらす企業である事(地域性)③地域コミュニティの利益を効果的に実現する企業(公共性)である事、の3つの特性をもつ企業である。これを自治体が認定して支援を行う仕組みだ。現在、1514の企業が認定されて活動している。
業種別の企業数をみると①一般食品775、伝統食品285、観光235、工芸品106、リサイクル97、教育79、文化芸術68、物流配送23、衣類・靴19、社会福祉7、エネルギー7、流通業1.その他である。これを法人別にみると営農法人41%、株式会社21.7%、協同組合23.9%、社団法人2.8%、漁業組合1.1%、農業会社1.8%、有限会社1.1%、その他である。
自活企業について
これも日本にはないカテゴリーである自活企業について。日本の生活保護法に当たる韓国の法律は「国民基礎生活基本法」である。この法律は単に貧困層への生活費の支給だけでなく、経済的自立のための活動を支援する事業推進を定めており、全国各地域に自立センターが作られ、困窮者への自立支援の事業が実行されている。その結果として生まれたのが自活企業なのである。自活企業は現在全国統計によると1170企業ある。内訳は①清掃・消毒252、②家屋修繕212、③介護などケア111、④弁当や食物の提供190、⑤廃棄資源の永サイクル56、⑥洗車などサービス提供28、その他である。近年はこれらの中から協同組合法人へ転換するものもある。
社会的経済支援センター
先の述べた様に「社会的経済基本法」は未だ制定されていないが、社会的企業育成法に基づく企業を発展させるために2011年に支援事業や統計作成などの活動のために政府によって「社会的企業振興院」が組織され、地方レベルでも支援センターがソウル、京畿道、仁川市、江原道、大邸、慶尚北道、釜山市、慶尚南道、光州市、全羅北道、全羅南道、済州道に組織されている。日本の市町村に当たる市郡区には64カ所の支援センターが組織されており、総予算は約103億円である。きめ細やかなコンサルや資金提供などの活動をしている。
これに呼応する市民社会側では、全国レベルの社会的経済連帯会議を組織し、地域別、業種別には各種協議会を組織して活動して、相互の情報交換と連帯行動をしている。
これまでの運動の成果と課題
最大の成果は市民社会でも政府や自治体レベルでも「社会的経済」について理解が深まり、一般化したことである。信用協同組合中央会が約100億円の基金を創立したのは一例である。政府は大統領の下に担当秘書官も置き、地方自治体でも担当部署が置かれて専門家が徐々に育ってきている。(既に市、郡、区の社会的経済担当の部署が136自治体にある)
しかし順風満帆ではない。全国的な発展状況を見るとソウル市と京畿道など首都圏は発展しているが地方の農山漁村などではまだ十分に発展していない。また、社会的企業や協同組合を設立したものの事業を開始していない組織がある。事業計画や資金調達が不十分で、中には国や自治体の支援を当てにした受動的なものもある。国や自治体の支援が打ち切られると直ぐに停滞・解散した事例もある。社会運動側はこれらの課題を直視して、発展できる模範的なモデル事業を創り、全国、全業種に普及させる課題を背負っている。
(以上)
Comentários